VOCALOID


カナリアの鳥籠



 目を開ければ、いつもと同じ天井が目に入ってくる。ああ、そうだとがくぽは今自分の置かれている状況を把握した。眠っている場所こそ天蓋つきの豪華なベットだけれど、それ以外には小さなテーブルが部屋の片隅にひとつぽつんと置かれただけの、真っ白なリノリウムに囲まれた部屋。天井に近いところにある横長の窓は格子付きで、そこから太陽光が差し込んで床に影を落としていた。
 がくぽが起き上がると、チャリ…という金属音が部屋に響いた。右手に付けられた手枷ががくぽの動きに合わせて音を鳴らす。忌々しい音。
 そしてずきずきと痛む全身の擦り傷が何も身に付けていない白い肌に痛々しそうに赤くなっている。冷たい床にぺたりと足を付けたところで、鍵が内側からは開けられない重厚な扉が開かれた。

「おはよう僕の愛しいお姫様。ごきげんはいかが?」

 美しいブルーの髪をさらさらとなびかせて、手にしたトレイをテーブルに置くと、がくぽの元まで歩いていき、うやうやしく跪きがくぽの左手の甲に口付けをする。
 がくぽがその手をぱんと跳ね返す。カイトからすかさず平手打ちを受けるとがくぽの唇の端が切れてしまった。つぅと流れた赤い血をカイトは舐めとると、がくぽの頬に手を当てて目を逸らせない様にすると、メープルシロップのようなそれはそれは甘い声でがくぽに囁く。
「いつまでそう反抗的なのかなぁ」
「このような扱いを受けて屈することなど出来るか」
 がくぽは凛とした声でカイトに向き合い、ガラス玉のような瞳を侮蔑の色に染めて睨みつける。その様子がまたいかにもがくぽらしくてカイトは満足そうに笑う。


 そう、それでいい。それがカイトの望むがくぽなのだから。
 こんな風に気位の高いがくぽを蹂躙することの快感といったら至高の味だ。


 がくぽの利き腕は鎖の枷がベッドヘッドに繋がれていて自由に動かすことが出来ない。ゆえに抵抗らしいものは主に左手と足ですることになるが、両の足首をカイトに取られてしまったらそれこそカイトの思う壺だ。ぴんと張りつめた緊張感が2人の間に常に流れていた。



 がくぽはこの生活が始まったきっかけを思い出す。それまで普通に友と接していたカイトがある夜に酒を飲もうといって日本酒を出してきた。カイトが飲めるのならば自分も飲めるのだろうと思って口をつけ、談笑しているうちに自分の身体がおかしいことに気付いた。
 酒に混入されていたのは即効性のある媚薬だった。
 そこで半ば無理矢理カイトに身体の契りを結ばれ、その次の日からこの日々が続いている。
「カイト殿は、何故私に執着する。同じボーカロイドなのに」
「…同じ?」
 ぎりしとベッドのスプリングが鳴って、カイトはがくぽを押し倒す。カイトの手はまるでビクスドールのようながくぽの白くなめらかな肌の上を滑らせて、その触り心地を楽しむ。胸の飾りをきゅっと強めに摘んでやれば、カイト好みに仕込まれてしまったがくぽの身体はとても素直に反応を見せ、がくぽの口唇からは切ない悲鳴が漏れる。
「こんなに綺麗で美しいがくぽと俺が同じだとでも?笑っちゃうね」
 がくぽの艶かしい紅が引かれた口唇に噛みつく様にカイトがキスをすれば、気丈ながくぽは初めはカイトの舌の侵入を拒もうと必死に耐えるが、執念の差なのかがくぽはカイトの舌を受け入れてしまい、そのまま口内を犯される。背中に回されたカイトの右手ががくぽの背筋をなぞって奥への窪みに辿り着くと、がくぽの身体が緊張して固くなる。
「嫌っ…」
 口唇をがくぽの首筋に移していたカイトの耳に、小さながくぽの抵抗の声が聞こえる。ああ、受け入れてしまえばうっとりするような快楽に溺れられるというのに、がくぽは己にそれを許さない。がくぽの顔を盗み見てやれば、ぽろぽろと涙をこぼして精一杯耐えている表情が見える。
 くっくっと、カイトが妖しく笑う。いくら泣き叫んでも敵わないことがあるということを思い知ればいい。
 がくぽの窪みの中に指を差し入れて、ぐちゅぐちゅと掻き回す。中にはまだ、昨夜カイトが放った精液が残っていてそれが潤滑油代わりになってくれている。
「うあっ、あぁ、あ」
 えぐり出される快楽に怯えるようながくぽの美しい高音の旋律をうっとりと聞く。そこに入るノイズの様に、自分が付けたがくぽの右手の枷ががくぽの動きに合わせてチャリチャリと音を立てる。
「邪魔だな」
 そういってカイトは鎖をベッドヘッドから外してしまう。セックスの最中にがくぽが何かできるわけがない。しかし終わってしまえば籠から逃げ出せない様にまた付けるのだ。

「あはは、下の口ははしたなくよだれを垂らしているよ。ほら、ねだってごらん?」

 『俺』が欲しいと、その艶やかな唇で求めて欲しい。

 カイトは愛おしそうに、がくぽの細くて長い薄紫色の髪の毛を梳いてやる。がくがくと身体を震わせたがくぽは熱に浮かされた様に視線を宙に彷徨わせ、躊躇いながらカイトの望む言葉を紡ぐ。
「い……って…っ」
「何?よく聞こえない」
 カイトは自身のモノの先端をがくぽの入り口に擦り付けて、ほらほらとがくぽを急かす。
「カ、イトどの、のを、私の中にっ…下さい」
 言い切った瞬間に見せるがくぽの絶望したような表情がカイトの加虐心をくすぐる。にやりと笑ったカイトは待ってましたと自身のモノを一気にがくぽの身体の奥へとねじ込んだ。
「ああっ!」
 その強引さはがくぽの背を弓なりに反らせた。僅かに宙を舞った髪の毛が弧を描いて散らばる。
 ねっとりと動いて焦らしてやればがくぽの方から腰を振ってくる。淫靡なる欲望に堕ちていくがくぽはこの世で一番美しいとカイトは思う。
 がくぽの膝を折曲げて身体に密着する様にすると、繋がった部分がカイトからもがくぽからもよく見える。ぐちゅ、といった粘膜のこすれ合う音がいやらしく簡素なリノリウムの部屋に響き渡る。
「んっ…ふっ、あう…!」
「うっあ…!」
 2人は身体をひと際大きく揺らすと、カイトががくぽの中にその欲望の種をどぷどぷと吐き出していく。がくぽはがくぽでほんの少し弄られただけなのにカイトと同時に精液をびゅるっとまき散らして、それはカイトの腹と自分の腹にぽたぽたと落ちた。

 がくぽの手枷をベッドにくくり付けるガシャリと言う音が響けば終わりの合図。一通りの始末をして、カイトはベッドの中でぐったりしているがくぽの頬にキスをしてから、この部屋を出た。




 どれだけがくぽを貪れば気が済むのだろう。自分でもよく分からない。気高く咲く白百合のようながくぽを手折ってしまったその日から、きっと自分は狂ってしまったのだ。

 カイトは目を閉じているかどうか分からない神に祈る。
 どうか、この矛盾した思いがひと欠片でもがくぽに伝わる様にと。



08/09/14

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