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Sleep My Dear



 夜通し身体を繋げて愛し合って共に眠りにつく。そして迎える朝の光の中に愛しい人の寝顔を見てささやかな幸せに浸る…そんな甘い場面を夢見ているカイトであったが、それは一向に現実にはならなかった。がくぽは目覚めるのがカイトよりも随分と早い上に、カイトの目が覚めるまで同じ床についているということはなく、いつも自分の寝室へ戻っていってしまう。目が覚めた時に隣にいるはずの人がいないのは正直かなり寂しい。どうしたらがくぽの寝顔を見つめてる朝を迎えることが出来るか、最近のカイトはそればかりを気にしていた。
 今現在ベッドに素っ裸のがくぽを押し倒しているというのに、気持ちは先へ先へと向かっている。がくぽは下から瞳をキラキラさせているカイトの顔を眺めていると、おもむろにカイトの鳩尾に膝蹴りを決めてみた。
「ごふっ!…な、なにするのがくぽ…!」
「する気がないなら退け」
 がくぽはむすっと不機嫌な顔になる。美人だから怒った顔は本気で怖い。そんな君も好きだなぁとカイトは心の中で思う。マスターの前では澄ました顔で人形の様にあまり大げさには表情を変えないがくぽだけれどカイトが相手だと容赦なく怒ったりするのは、がくぽに許容されている証拠なのだと思っている。
「やる気はあるよ、そりゃもう」
「そうか?何やら思案に駆られていて心ここに在らずといった感じだったものでな。試してみたのだが」
 カイトはぎくりと身体を竦めた。がくぽはなんでこう鋭いんだろうとカイトが感心していると、またがくぽがカイトの身体の下でもぞもぞと動く気配がしたので今度は攻撃されまいとカイトは気を引き締めて、まずは無事に愛の営みを終えることに集中することにする。


 カイトは素早くがくぽの口唇を塞いでしまい、何度も啄むような口付けを繰り返す。その内に酸素を取り込もうとしたがくぽの口唇が開くタイミングを逃さずにするりと舌を忍び込ませてがくぽの舌に絡み付くと、ようやくがくぽの機嫌が解けたのかがくぽもカイトを求める様にそれに応え始める。
「…ん、はっ」
 口唇を離してはまた噛みつく様に口付けを貪り続けると、がくぽの口唇から甘やかな溜息が漏れる。その言葉を合図にカイトはキスの位置を口唇から首筋、胸元へとがくぽの身体を下へ下へと降りていく。途中にある胸の飾りを口に含んで吸い付くと、がくぽの身体がビクビクと過敏に反応を見せる。
「がくぽは乳首攻められるの好きだよね」
「あ…あっ…はぁっ」
 くりくりと指先で擦り上げてやればその存在を可愛らしく主張する。舌先を器用に使って頂点をつつく様に舐めてやればがくぽは身体を丸めるようにしてカイトの背中に白く細い腕を伸ばす。
 そのまま引き締まった腹筋にきつく吸い付いては赤い所有の証を刻み込んでいくと、やがて辿り着くのは少しだけ持ち上がっているがくぽの男性器。カイトがそっとそれを握ると、がくぽの腰がカイトから逃れる様に一瞬動くが、カイトはがくぽの腰をがっちりベッドに押し付けて性器への愛撫を始める。
「や…カイトぉ…あ、駄目ッ…!」
「嫌じゃないでしょう、大好きでしょう?ほら、ちゃんと硬くなってる」
 カイトはアイスキャンディを舐める様に舌でがくぽのモノを下から上へと舐める。そしてそのまま口の中にすっぽり含んでしまうと、カリの部分や性器の先端を舌でぐるりと舐めながら頭を軽く上下に動かして竿の部分を口唇で扱き、手の平は両の玉を優しく揉み解してやればがくぽのモノは僅かに震えながら先走りの液体を先端からとろとろと零し始める。
 カイトはがくぽのモノから口を離して、ベッドのサイドテーブルに置いてあるローションの瓶を取ると、蓋を外して自分の手の平にローションを垂らす。ローションまみれになったカイトの指先はがくぽの後ろの孔の入り口を広げる様に動かしながらがくぽの身体の奥へと指を進めていく。火照る身体には少しだけ冷たいローションの刺激がまたきついのか、がくぽは背を反らせ大きく足を広げた体勢でカイトの指を受け入れながら嬌声を上げ続ける。内壁から前立腺を刺激する様にぐりっと強く指をあて擦ると、がくぽはいつもとはまるで違う色の綺麗な声で啼いてみせた。
「カイト…もう、早くっ…!」
 この美しい人が自分によってこんなにも淫らに快楽に善がり自分を求めてくる。これ以上の喜びが在ろうかと、カイトはがくぼへの愛おしさと征服欲が満たされるのを感じながら指を引き抜くと、がくぽが望む自分のモノを孔の入り口に宛てがう。そのまま一気に貫いてしまうと、がくぽの喉の奥から悲鳴のような声が漏れた。あとはもう絶頂を求めて互いに腰を振って快楽の海へ溺れてゆく。
「あっあ、はぁ、ん…!カイ…ト…ぉ!」
「がくぽっ…あ、うっ!」
 互いの名を呼びながらカイトはがくぽの身体の中に、がくぽは宙にそれぞれ白濁した熱い欲望をぶちまける。がくぽのそれは宙を舞いぱたぱたとがくぽの腹を汚した。桜色に上気した肌に落ちた白がひどく艶かしく見える。サイドテーブルに置かれた間接照明の柔らかい光に照らしだされたがくぽの白い肌に伝う汗が妖しく煌めいていて、まるで芸術品のようだと思った。



 その後2回同じことを繰り返し、ようやく落ち着いた頃にぐったりと気怠そうながくぽの身体をカイトは自分の腕の中へと抱き込む。いつもこうして離すまいとしているのに、目が覚めたら腕の中からいなくなってしまうがくぽ。いつも以上に力を込めてがくぽの細い身体を抱きしめると、がくぽは苦しそうに呻く。
「…カイトは何を考えておったのだ?」
 行為の前の腐抜けた様子といい、最近のカイトはどこか上の空であることにがくぽは密かに心配していた。自分の行動がカイトを不安定にしているのならば、きちんと言葉で伝えて欲しいと。
「がくぽに言ったら鼻で笑われそうなんだけど」
「失礼な!人の悩みは真面目に聞くぞ」
 これは全部話すまでがくぽの方が諦めてくれそうにないと判断したカイトは、渋々話すことにした。改めて口にすると本当にどうでもいいことにこだわっている自分が再認識出来て恥ずかしかった。
「……要するに、カイトは私の寝顔を見たいと」
「うん。でね、こんな風に俺ががくぽの寝顔を見つめて『ああ、俺はがくぽが好きだなぁ…』ってあまーいムードに浸りたいの」
 また瞳をキラキラさせ始めたカイトの様子を見るにその思い入れは相当なものだろうとがくぽは思ったが、いかんせんがくぽにだって恥じらいというものは在るわけで、むしろカイトよりも恥じらいの部分が多いので寝顔を見られたりするのはあまり好ましくないと思っている。それに夜が明ける頃に目を開けて自分の部屋へ帰るのだって、もしマスターがふいに訪ねてきた時にがくぽが自室にいない、カイトの部屋を見たら2人で裸で眠っているという場面を見られた日にはマスターに向ける顔はないと思っている。それはカイトとの関係がマスターに対して裏切りになるとかカイトのことを好きではないということではなく、ただがくぽの考え方と性格によるものである。
「どうしても朝ではないといけないものなのか」
「そうだよ!朝の爽やかな空気の中俺の腕の中でぐっすり眠るがくぽじゃないと」
 そう力説されても、がくぽは元々眠りが浅いタイプだ。恐らくカイトが想像しているような熟睡しきった状態になっている時間はとても短いはず。
「ならばカイトは今すぐ眠って早起きをしろ。私は日が昇る頃まで起きて、カイトが起きる頃に眠る。それなら上手くいくと思うのだが」
「うー…なんか計画的で嫌だなぁ」
 こういうことは偶然がもたらしてくれるからこそ喜びも至福感もひとしおなのに。
「だが私としてもこれ以外はどうにも出来ぬ」
 ベッドの中で散々討論した結果、とりあえずその作戦を実行してみることにした。がくぽがカイトの背中を赤ん坊にしてやる様にぽんぽんと規則的に叩いてやると、カイトはだんだんその規則的なリズムにウトウトしてきてそのまますぅ…と眠りに就いた。がくぽはその様子を確認して、ぼんやりとカイトの寝顔を見ているとなんだか心の奥がぽっと温かくなった気がした。これがカイトが浸りたかった雰囲気なのだろうかと思いながらがくぽはじりじりと夜明けを待つ。がくぽだって疲れているし眠りたいのだが、約束してしまった以上今眠るわけにはいかない。僅かに開いたカーテンの隙間から月明かりが差し込んでいて、朝とはまた違う明るさに2人の身体は包まれていている。これはこれで趣があってがくぽにはこちらの方が好みだった。
「月と太陽、私達はきっとそういう対称性があるのだな」

 太陽の光がよく似合う明るく爽やかなカイトと、月明かりが似合う神秘的で美しいがくぽ。

 月が傾き太陽が空を白々しく照らし出す頃、がくぽはようやくことりと眠りに落ちた。カイトの腕の中で眠るのは心地が良くてとても安心する。
 一時間ほど空いてカイトが目を覚ますと、そこにあるのは今までずっと望んでいた光景だった。カーテンの隙間から入る光は月から太陽に代わり、カイトの腕の中には眠るがくぽの姿がある。カイトはほわわ〜と目を細めるとがくぽを起こしてしまわない様にそうっとその頬に触れると、確かな温もりが伝わってきた。
 ああ、やっぱりいいなぁ、このシチュエーション。
 目が覚めたらひとりではないことがこんなにも嬉しいことだなんて思ってはいなかったから、これは新たな発見だ。戯れにそっとがくぽの口唇に自分の口唇を重ねると、しばらくしてがくぽの瞼が開いた。カイトとは少し違う碧色の瞳にカイトの姿が映し出されている。
「おはよう」
「…寝込みを襲うつもりなのか?」
 カイトがキスをしたことがしっかりバレているらしい。
「違うよ。眠り姫をキスで起こしたんだよ」
 そういうカイトの笑顔は、朝の太陽の光にキラキラと照らされてがくぽにはほんの少し眩しく見えた。



08/10/29

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