VOCALOID


Without You





 さらさらと揺れる紫色の髪の毛が、窓から入ってくる朝日に照らされてキラキラと光っている。
「…む、朝か」
 がくぽはむくりと布団から起き上がって軽く伸びをする。背筋をぴんと伸ばすと少しぼやけていた視界がクリアになる感じがしてとても気持ちいい。


 がくぽの朝の日課はマスターを起こすことから始まる。
 マスターは夜型人間で、放っておくと昼過ぎまで起きてこない。がくぽがそれではせっかくの時間が無駄になると言ってマスターも朝起きる様にと決めてしまったのだ。
 マスターの寝室に入ると、たくさんの雑誌類に囲まれてベッドの上で猫の様に丸まって眠っているマスターの姿があった。
「マスター、朝だぞ、起きぬか」
 がくぽがゆさゆさとマスターの肩を揺すると、マスターはがくぽに対抗する様に布団を頭から被ってしまった。うー、とまだ起きたくないというマスターの気持ちを代弁したうなり声も聴こえる。
 この攻防戦は毎朝繰り広げられるのだが、結局この一言でマスターは飛び起きることになる。

「わかった。マスターは心ゆくまで眠るが良い。私は一人で散歩へ行く」

 がくぽがそう言ってマスターの方から手を離す瞬間に、強い力で手首を掴まれぐいと引っ張られる。
「待て!お前一人で行くな!」
 そこからのマスターの手際の良いことと言ったらない。素早く洋服に着替えて顔を洗い、がくぽの手をしっかり握って2人は家を出る。


 散歩のルートはマンションから15分ほどのところにある河原の土手だ。ここを少し川沿いに気が済むまでてくてくと歩く。
「もう場所も覚えたから、私一人でも来れるぞ?」
「いーや、安心出来ないな。変なところで曲がったりして、迷子になるのがオチだね」
 お互い憎まれ口を叩きながら、顔はにこにこ笑っている。


 2人一緒に何かをするのはとても嬉しいことだと知っているから。





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