VOCALOID


ナルシスの花





 マスターの口唇ががくぽの口唇に吸い付いては離れる。何度も何度も、角度を変えて接吻を繰り返される。マスターの舌ががくぽの舌を絡めとり、がくぽが逃げても逃げてもマスターの舌は追ってくる。ちゅう、と舌も吸われてがくぽは呼吸もままならない。口唇が離れる隙を盗んで酸素を取り込むが、その時に思わず声が漏れてしまった。
「…ふあぅ…!」
 その声は、普段自分が出している声とまるで違う響きと色を持っていた。がくぽ自身の耳にその声が滑り込んできた時、びっくりして思わず自分の口を塞ごうと手を伸ばそうとしたけれど、両腕はマスターに強い力でがっちりと掴まれていて動かすことはかなわなかった。


 まるで盛りのついた雌猫のような自分の喘ぎ声に恥ずかしくなって、がくぽはぽろぽろと涙を零した。
「がくぽ、どうした?苦しいか?」
 涙に気がついたマスターは優しくがくぽに問いかける。
「こんな…恥ずかしい声っ…マスターに聞かれたくない…」
 がくぽの初々しい様子がとても愛らしくて、マスターは目尻を下げてしまう。ああ、そんなことを言われてしまったらますます聞きたくなってしまうものなのに。まったく、男のそんな心の機微がさっぱり分かっていない。この美しいVOCALOIDは。

「俺は聞きたいな…ほら」
 マスターは軽くがくぽの耳朶に噛み付いて、そこから首筋に舌をつ…と這わせた。
「ひゃう!」
 感じたことのない感覚にがくぽの身体がびくりとはねる。自由になった両腕は縋る様にマスターの背中へと回されている。
「どんな感じ?」
 くすくすと笑いながらマスターはがくぽに感想を聞く。こちらは恥ずかしくて死にそうなのにこんなに意地の悪い人であったのか、とがくぽはマスターへのデータをひとつ増やし、律儀にマスターの問いに答える。
「何やら…こう、ぞくぞくって、まるで身体に電気が走ったような感じがしたぞ…」
 がくぽの声はか細く震えている。

「そう、いいね。がくぽは敏感っと」
「い…言うな!マスターは意地が悪いのだ」
「俺、好きな子は虐めたいタイプだから」
 マスターの舌はがくぽの首筋を通って、鎖骨をなぞる。そうしてマスターの舌ががくぽの滑らかな肌を動く度にがくぽの身体はふるふると震え、小さく声を漏らしていた。

「あっ…あっ!やぅ」
 マスターも動かしているのは舌先だけではない。指先ががくぽの脇腹や太ももを微妙に触れるか触れないか位の刺激を与える様に撫でさする。ちらちらとがくぽの表情を盗み見ると、目を完全に閉じることはせずに薄く開いて、切なげに眉を寄せ悩ましげに与えられる快楽に耐えている様に見える。

(どうしたらもっと乱れるかな…)
 そんなことを考えていたマスターに、がくぽの胸の小さな飾りが目に入った。こんなところも人間と同じなのか、と感心したと同時にマスターはその飾りを口に含んでかり、と歯を立てた瞬間、がくぽの背が軽く反った。
「…うぉ、そんなに感じる?乳首」
「そんなの分からぬっ…あ、あっ」
 反応が面白いのでマスターは舌先で飾りの先端を突いたり、ちゅうちゅうと吸う。右手でもうひとつの飾りをこりこりと摘んだり押しつぶしてみたりする。
「マスターっ…わ、私で…遊ぶなぁ…!」
 がくぽはそうしてマスターに胸を弄ばれている。本来ならそこに熱が集中してもいいのに、先程から身体の腰の辺りの奥の方に熱の塊があって、そこにどんどん蓄積されているような感覚に陥る。頭の中も熱で浮かされぼうっとして、もう何かを考えることもままならない。もしかしてとんでもないことを口走っているのかもしれないが、今のがくぽには判断はつかない。


「ん…?」
 ふとマスターは何かに気付く。その何かを忘れていた訳ではないが、がくぽが言っていた様に「そういうことに応えること」が出来るかどうかは確かにマスターにも分からなかったので、ちょっと頭から抜けていたのだ。
 そう、がくぽの性器のこと。
 排泄行為を催している様子に一度も出会ったことがなかったので、「男性型」という区別の為だけについていても不思議ではないなとマスターは思っていたのだ。

 ところが、マスターの身体の下で、がくぽの性器はきちんと人間の男性と同じ反応を見せていた。穢してはならないものに触れるような背徳感を感じて、マスターは胸を躍らせがくぽの僅かに勃ち上がっている性器を優しく握る。がくぽの方もそのことに気がつき、ゆでだこの様に顔を真っ赤にして必死にマスターを止めに入った。
「まっ、マスター!それはっ、他人が触れるものではござらぬ!」
「がーくーぽー、ちゃんと勃つんだなぁ」
 好きな子は虐めたいと豪語したこのマスター。嫌がるがくぽを前にして大人しく「ごめんなさい」とそれを手放す訳がない。軽くしごいてみれば角度を少し上げた。
「ますた、嫌っ…ん!」
 がくぽはマスターの肩を掴み爪を立てる。引き離そうと必死なのだが、がくぽの身体は奥に持つ熱のせいか、力が上手く入らない。


 マスターは手の中のそれをしごきながら亀頭の部分を舌先でなぞり、先端のくぼみもぐりぐりと強くほじる様に舌を器用に動かす。
 その行為ががくぽに与える快楽は相当なもので、がくぽはもう喉を反らせて、マスターの肩を掴んでいた手はシーツをぎゅっと強く握ってされるがままになっている。
「んっ、あ…!あぁっ、はぁっ…!」
 マスターの口内で、がくぽの性器がぶるぶると震える、それは絶頂の合図。
 射精するのかは分からないが、とりあえずマスターはがくぽの性器を口から離した。
 天を仰ぐまでになったそれはマスターに強くしごかれた勢いでビクビクと痙攣する様に震え、次の瞬間性器はびゅくっと白く濁ったがくぽの性欲を吐き出した。それはぱたぱたとがくぽの桜色に染まった腹に落ちて淡く美しいコントラストを作る。



 射精したことでひとまず落ち着いたのか、胸を大きく上下させて呼吸を整えようとするがくぽの身体をマスターは力任せにくるりと反転させた。
「まっ、マスター、何をする…!」
「お前だけ気持ち良くなって終わりになるか!アホ!ここからは俺の番だよ」
「わっ、わっ…!!」
 あっという間にマスターに腰を高く持ち上げられて、まさに獣の体勢をとらされる。
「こっ、こんな屈辱的な格好は嫌…あっ!」 
 ぐちゅり、と水っぽい音が部屋に響いた。
 マスターがどこから持ってきたのか、とろりとして蜂蜜のような甘い薫りがするローションをがくぽの密壷に垂らしたのだ。


 マスターの2本の指がローションを絡めながらがくぽの密壷の中へ少しずつ入ってくる。
「いや、やだぁっ」
 こんな行為も感覚もデータにない。未知の行為にがくぽは怯え涙を流して許しを懇願する。そんながくぽにさえ欲情してしまう自分はそうとう惚れているんだな、とマスターは笑みを浮かべてしまう。
 ローションでベトベトになった指をゆっくりとがくぽの身体の中で動かしてみる。
「ひぁ、ああぁ…!な、何をっ」
「がくぽ、痛みはあるか?」
「いっ…たくは、ないでごさるっ…ひっく…」
「いい子だ」
 ずるりとがくぽの中から自分の指を引き抜くと、マスターはもうパンパンに大きくなって待ちきれない状態になっている自分の性器をがくぽへの入り口と宛てがい、そのままローションのぬめりを利用して勢いよくがくぽの身体の中へと突き進んでいく。
「ひいっ…!あぁ、あぅっ」
 大きく身体を揺さぶられてがくぽは困惑する。指よりも太いものがねじ込まれ挿入を繰り返される。初めはローションが手伝ってくれたとはいえ多少の痛みがあった。けれど、挿入が繰り返されていくうちにだんだんとその刺激が気持ち良くなっていく。


 そう、先程から抱えていた身体の奥の熱と、マスターの性器ががくぽに与える熱が徐々に混ざり合って融合し始めたのだ。涙は止まり、身体の振動と呼吸を共にする。射精して熱を放ったがくぽの性器もまた熱を帯びて持ち上がり始めている。
「がくぽっ…」
「ん、あっ、はぁっ、マスターぁ」
 長い髪をなびかせ、桜色に上気した肌に流れる汗。虚ろな瞳で幻を見ている様に嬌声を上げ自分を呼ぶがくぽを後ろから見ながら、たまらなく愛おしいと思う。

「…がくぽ、中に出すっ」
 マスターの性器はがくぽの中の肉襞に吸い付かれてきゅうきゅうと締め付けられている。抜く方が大変だと思ったマスターはそのままがくぽの中に今までの思いと一緒に精液をぶちまけた。
「ふぁ、あぁーっ!マスターの、とっても熱い…っ!ひぐっ、うぅ!!」
 大きく身体ががくがくと動き、自分の中にマスターの熱が放出されたのを感じたと同時に、がくぽはまた自分自身の熱もそのまま吐き出した。





 2人はそのまま離れることなく、マスターは懐にがくぽを抱きしめて裸のまま一晩過ごした。エアコンがあったので熱い行為の後も快適に過ごせたのである。
「…マスター、ちょっと聞きたいのだが」
「何かな?可愛い俺のがくぽよ」
 一度契りを交わしてしまえばこっちのものとばかり、マスターはでれでれと鼻の下を伸ばしている。
「もしかして夏の夜は毎日こうなるのでござるか?」
 日本の夏の暑さは8月だけではない、9月になっても残暑という形で暑い日はこれから約1ヶ月は続くのだ。
「そうだねー夏は恋の季節だから」
「いや、言っていることが分からぬぞマスター…」
「がくぽが嫌ならしないさ」
 そう言ってがくぽの乱れた髪の毛をマスターは手ぐしで梳いてやる。それが気持ち良くて、がくぽはそのままうとうとして夢の中へと入ってしまった。マスターは穏やかな寝息を立てているがくぽの姿を眺めて、額に軽く口付けをすると、ぽつりと呟いた。
「おやすみ、良い夢を」
 マスターもそのまま目をつむって、長かった一日にようやく別れを告げた。





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