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真夏の夜の夢





 マスターはここ数日ずっと音楽室にこもっている。新曲のオケを作っているとのことだが、それがなかなか思う様に進まないらしい。食事とトイレとシャワーのためだけにしか音楽室から出てこなくなってしまったので、夜はマスターのベッドでがくぽは一人で眠っている。ベッドが広く使えるのは嬉しいことだが、最近はずっと一緒に寝ていたマスターがいないという違和感ががくぽの心に寒い風を送る。
「奇妙なものよの、初めは一人で眠っていたのに」
 ダブルベッドの上でマスターの枕を胸に抱いて、がくぽはごろごろと居場所を決められずに転がっていた。
「こうしていてもつまらぬ…眠るか」
 はぁ、とため息を零してがくぽは部屋の電気を消して布団を被った。マスターはまだ作業を続けているのだろうか。音楽室の隣がマスターの部屋という間取りになっている。2人の距離は多分1メートルそこそこくらいだろうけれど、隔てる壁の厚さが心の距離を何倍にも増やしている様に思えた。


 一方、音楽室では生気が抜けたようなマスターの姿があった。ヘッドフォンを外して一息つく。あらかじめ飲み物を持って部屋に入るので、休憩時間にもこの部屋から出ることはなかった。
「あー…だめだ、こりゃ一旦時間を置かないと出てこねーわ…」
 ペットボトルのウーロン茶を一口ごくりと飲むと、ふと時計が目に入った。もう深夜の2時を回っていた。もうがくぽは寝ただろう。そういえばここのところ曲を作るのに係りっきりでがくぽに構ってやれていない。


 もう一週間は前になることだが、一人で外出したがくぽが変な男共に絡まれてあやうく攫われるところをすんでのところで助けた、という事件があった。あのことが余程怖かったのか、がくぽはあれからマスターと一緒でなければ外に行くことをしなくなった。それはそれで良いことだが、マスターがこんな風に引きこもってしまっていると、当然がくぽも家にいるしかなくなる。そしてマスターは別のことに没頭してがくぽを一人きりにさせている状態だ。つまらないとも寂しいとも思っていることだろう。がくぽはマスターの邪魔をしない様に配慮をしているのかこの状況に文句ひとつ零すことはない。ただ、マスターが音楽室へ向かう時に寂しげな瞳でじっと背中を見ている。


「そろそろベッドでちゃんと寝るかなぁ…」
 音楽機器類の電源を落とし、エアコンと照明を切ってマスターは自分の部屋へと戻ることにした。
 がちゃりとドアノブが音を立て、そっとドアを開けてマスターは自室の中の様子を目を凝らして見る。部屋の私物は触っていないから篭る前と変わらない場所に置かれてあった。すでに電気は消えていて、ベッドの上ではがくぽが一人で胎児の様に丸まって眠っていた。
「うわ、真ん中陣取って寝てるよ…」
 マスターがベットで眠る為には眠っているがくぽを動かさないといけない。けれどさすがに本人を起こして移動させるのは可哀想なので、マスターはそっとがくぽの身体の下に手を回してまさに赤ん坊を抱くような体勢で、そっとがくぽの位置をずらす。


 するとがくぽがするりと細い腕を伸ばして、マスターの首に腕を回して身体を擦り寄せてきた。
(やべ、起こした…!?)
 一瞬マスターは焦ったが、がくぽの寝息は穏やかで乱れることもなく、瞳が開かれた訳でもない。きっと無意識の行動なのだ。
 しかし抱きつかれてしまったマスターは、剥がしてしまうのも忍びないのでそのままがくぽを抱き枕状態にして(要するにいつもの体勢)ベッドに横たわった。エアコンで冷やされたシーツの温度が心地よく感じられる。
 適度な空気の冷たさと、懐に抱いたがくぽのあまり高くない体温がマスターを早くも夢の世界へ誘う。うとうととしていると、がくぽが寝ぼけているのか小さな声で自分を呼んだ。その声色はとても寂しそうで、今まで放り出していたことを申し訳なく思った。
「ごめんな、がくぽ」
 明日からは今までの分を取り戻す為にうんと構ってやろう。
 しかしセッスクだけはマスターだけの都合なのだが。

(…あ、ちょっと、待て俺…)

 そんなことを考えていたら、思わずムラムラと欲情してしまった。音楽制作に専念している間はストイックになるので性欲もこれといって働かないのだが、こうしてがくぽの肌に触れてしまったら急にその機能が活動を始めたようだ。

 しかしすやすや寝ているがくぽを襲うなんて…それも有りかも…いやいや、それは人として男としていかんだろう、とマスターの理性が必死に自制を促している。そしてそんなマスターの努力を嘲笑うかの様にがくぽはすりすりと自分の頬をマスターの頬にくっつけてくる。

(あああああー!がくぽ、お前というやつは全く空気が読めねぇな!)

 何故自分がこんなに苦しまねばならないのか、という誠に身勝手な言い訳を自分自身にして、マスターはそろそろとがくぽが起きない様に細心の注意を払って、がくぽの浴衣の前見頃を剥がしてみた。そこからはすらりと伸びた白い足と臀部、がくぽの性器がうっすらと見える。


 がくぽは何故か下着をつけるという習慣がないようで、デフォルトの衣装ではプラグスーツみたいなものをがっちり着込んでいるし、下着をつけるのはマスターが買い与えた服を着る時につけるだけだ。気持ち悪くないのだろうかと思うのだが、浴衣姿になってしまえばさして気にもならないと言っていた。

 マスターはそっと臀部に手の平を置いてみる。が、がくぽは一向に起きる気配を見せない。そのままするすると奥の窪みに辿り着いて、人差し指の先をほんの少しだけ窪みに埋める。その瞬間はさすがにがくぽの身体がぴくりと反応し身体をくねらせた。
「…んっ…」
 がくぽは眉根を寄せて不快そうな表情を浮かべたが、瞳は開かれることはない。マスターはドキドキしながら指の侵入を深めてみると、がくぽは虫か何かを払うような仕草をしてマスターから身体を離した。それはマスターにとってもありがたいことで、指をするりを引き抜くと、先走りの汁で既に程よく濡れていたマスターのモノを奥の窪みに宛てがい、すりすりと擦り付けて液体をがくぽの入り口に塗り付けていく。
「…や、あ…?あれ、マスターがおるぞ…?これは夢か…?」
 流石にここまでされたら意識も戻ってくるだろう、がくぽは寝ぼけ眼で目の前にいるマスターの行動をぼんやりみていた。
「うん、がくぽ、これは夢だよ」
 ちょっとずつ自分のモノをがくぽの中に埋め込みながら、にっこりとマスターは微笑み返す。こんな言葉で誤摩化されるはずはないと思ったが、運のいいことにがくぽはすんなりその言葉を信じてしまった。
「あ、んぅ…!な、んと卑猥な夢じゃ…私は…いつの間にこんなにはしたなくなったのか…!」
 マスターのモノが根元まで入り、ピストン運動が始められる。ぎしぎしとベッドのスプリングが音を立て、がくぽはマスターのモノで中を擦られる快感に支配されながら、切なく喘ぐ。
「いぁ、やっ、ああ…!」
 マスターはがくぽの両足の膝を掴み自分の方に乗せて、それまでの時間を埋めようとするかの様に激しくがくぽに腰を打ち付ける。部屋にはぐちゅぐちゅという粘膜が擦り合う水音と、皮膚と皮膚ぶつかるパンパンという乾いた音が混ざり合って響いていた。

「が、くぽっ…!」
 マスターがひと際大きく腰をうねらせ絶頂に達すると、がくぽの身体の奥に熱い液体がどぷどぷと注がれた。マスターのモノが引きずり出されると中に収まりきらない白濁の液体が窪みから溢れ出て、がくぽの臀部や太ももを汚す。
「はっ…はあっ、あ…ぁ…っ」
 がくぽはそのままかくりと糸が切れた操り人形の様に気を失って、くたりと身体を投げ出した。マスターはそんながくぽをしばらくうっとりと愛おしげに眺めてから、そそくさと後始末を始めた。




 翌朝目を覚ましたがくぽは、身体に残る異物感と痛みを疑問に思いながら起き上がる。ふと、横を見れば満足そうな表情を浮かべて眠っているマスターの姿。
「マスターはいつの間に。そういえば、奇妙な夢を見たような気がしなくもないのだが…思い出せぬ」
 とりあえず首の皮は繋がったマスター。すっきりしたマスターはあれだけ煮詰まっていた曲のアイデアが湧き出てきたらしく、その日わずか3時間ほどで作業を全て終えてルンルンと音楽室から出てきた。
「がくぽ、新曲だ!」
「はぁ、分かったから少しは離れてくれぬか?マスター」
 その日一日がくぽはマスターの腕の中から出してもらえずに、少々うんざりとしていた。構ってもらえるのは嬉しいのだが、このマスターは最近どうもその加減が極端になっている。早く秋が来ないものかと、がくぽはお茶をすすりながら居間から見える雲一つない青空を眺めていた。



08/08/21

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