VOCALOID


GOD BLESS YOU





 ここのところ天気が悪い。季節的にいきなり冷え込んできたところに加えて雨が結構な強さで降り続く毎日。おかげで洗濯物も乾かないし、紙類は湿気を吸うので本を読む時に酷く苦労する。イライラするなぁ、とマスターがストレスを溜めている傍らで、がくぽはじっと黒い空を見ている。何が面白いんだろうと思ってその様子を眺めていると、がくぽが突然口を開いた。
「マスター、あの雨雲はどこまで続いているのじゃ?」
 面白い質問をしてくるなと感心してみたが、本当に面白いだけでその意味がよく分からない。
「どこまでって、距離?高さ?…どっちにしても俺には分からないな」
「こう、あの雲を突っ切っていってすぽっと抜けたら青空が広がっているような気がするのだけれども」
 がくぽが一生懸命両手でその言葉の意味を表現しようとしている。確かにそれは想像上では可能なことかもしれないが、地球には大気圏とか成層圏とかそういう宇宙的な問題があるので、あの分厚い雲を突き抜けていくのは無理だろう。


 マスターがまた本に目を落としてパラパラとページを捲っていると、がくぽもまた窓から雨雲をじっと見ていた。いや、がくぽが見ていたのは雲ではなく、降り注ぐ雨粒だった。雨が入り込んで部屋が濡れたりしない程度にそっと窓を開けて、そこから漏れる音を聞いているようだ。雨音は不思議だ。その優しく響くさあぁ…という音は酷く心を安心させる。がくぽも今、その安心に浸っているのだろうか。
 マスターは読みかけの本に栞を挟んで、そうっと足音を立てない様にフローリングの床を歩いて後ろからがくぽの腰へと手を回した。うとうととその雨音に包まれていたがくぽはそんなマスターに気を取られることなく、視線だけちらりとよこしてマスターの姿を確認した。
「がくぽはあったかいね」
 すり、とマスターはがくぽの細やかな髪の毛に顔を埋める。雨の日は湿気のおかげでくせっ毛のマスターの髪の毛はいつもよりあちこちくるりと跳ねてしまっているのに、がくぽの髪の毛は流石にさらさらと直毛を保っている。がくぽの髪の毛からはシャンプーの香りが漂っていて、少しだけ心がどきりと音を立てた。接触するのに慣れていても、人間なんてこんなものなのだな、とマスターは自嘲する。
「マスターは寒いのか?窓を閉めた方が良いか?」
 がくぽは心配そうにマスターにそう問いかけたが、マスターは「かまわない」と言うのでがくぽは窓にかけた手を降ろした。がくぽの身体は体温を一定に保つ様に作られている。極端に寒かったり暑かったりとそういう環境に置かれない限りは。それに今は、後ろからぎゅうと自分を抱きしめているマスターとの密着した状態のおかげもあって多少冷たい外気が入り込んできても平気だった。


 雨音は優しく、不思議な音色をがくぽに届ける。あちこちで雨が跳ねることによって起こる音は、まるでオーケストラの様に重なりなって壮大な一曲を奏でている様に聴こえた。その曲を聴きながら、がくぽはマスターにしなだれかかる。くたりと身体を預けてきたがくぽにマスターはくすりと笑ってそっと腰に置いてあった手を浴衣の合わせから滑り込ませた。滑らかな白い肌を指でなぞれば、がくぽの口から吐息のような声が零れ落ちる。
「マスターは風雅というものを知らぬのか。全くこのようなことばかり…」
 がくぽはそう憎まれ口を叩くけれど、抵抗しないところを見るとこれはお許しが出た合図だろう、とマスターは勝手に判断する。
「俺のせいじゃないもんー」
「私が悪いと申されるのか?」
「まあまあ、誰も悪くない、雨が悪いってことで」
 マスターは自分が床の上にごろりと転がり、その上にがくぽを乗せる。寝室まで行く手間が焦れったいが、床の上でがくぽを組み敷くのは彼が痛そうで少し躊躇したのだ。それにそろそろがくぽにも色々と覚えて欲しいし…なんて。
「がくぽ、俺の言う通りにしてな」
「…?うむ、承知した」
 マスターはがくぽの額にちゅっといつものキスをすると、がくぽに逆向きになるように言う。がくぽはおずおずと身体を動かしてマスターの足先を見るような体勢になる。そしてマスターの言葉を待っていると、がくぽの下半身がざわりと肌を粟立てた。マスターが浴衣をべろりと捲り上げて、尻と性器が丸出しになってしまっていた。マスターは膝を立てているがくぽの太ももをなぞり上げてちょっと筋肉質で固いがくぽの尻をぐにょっと鷲掴みにすると、そのまま揉み始めた。
「マ、マスターっ…!」
「がくぽは俺のを丹念にしゃぶりなさい」
 命令口調で言われてしまっては、がくぽに拒否をすることは出来ない。マスターの動きに半分気を取られつつも、目を降ろすとそこは丁度マスターの股間で、ほんのちょっと膨らんでいるのが分かる。ジーンズのボタンを外してジッパーを降ろし、ずるずると下着ごとずらしてやればマスターの性器がぽろりと姿を現した。
 そっとがくぽはそれを両手で優しく握り、恐る恐る口に含んだ。丹念に、と言われた通りにゆっくり頭を動かしながら舌を使って拙いフェラをマスターに施す。竿だけでなく玉の方もはむとくわえてちゅっちゅっと吸ったり舐めたり。次第にマスターの性器は固く大きくなってきて、とろりと液体が先端から零れてくる様になった。
「…ふぐっ!?」
 突然の刺激にがくぽは肌を跳ね上げる。マスターはがくぽの奉仕をニヤニヤと見ていて、頃合いを見計らって同じことをがくぽの性器にし始めたのだ。マスターの方がずっと慣れているし、敏感ながくぽの方が限界が来るのも早い。
「ふぁ、あっ…ぁん!」
 がくぽも何とか先を続けようと思うのだが、マスターからのフェラのせいで下半身が熱を持ってしまってなかなか思う様に動けなくなってしまった。
「ほら、がくぽも頑張れ。同じ様にすればいいだろ?」
 マスターはにやりと笑って、がくぽの竿の裏筋を舌先でなぞる。ふるふると頼りなく震えている腰が先を誘っている様にも見えてマスターはどんどんがくぽを追い込んでいく。がくぽは何とか竿部分をくわえ込んで上下運動を繰り返す。マスターが自分から腰を突き上げてくる時、喉に先端が当たって呼吸が苦しくなりその度に涙がじんわりと滲む。
「がくぽ、そのまま飲んで欲しいんだけど」
 がくぽの性器の先端から零れ出ている先走りの液体を舌で吸いながらマスターはそうがくぽに命じる。どちらともそろそろ限界だろう。がくぽはぼんやりと熱で浮かされた瞳をしてこくりと小さく頷いた。するとマスターの性器はがくぽの口内でぶるっとその身を震わせて、ごぽっと精を吐いた。それはとても濃くて熱くて何より量が多かったため、がくぽは全てを飲み込むことが出来ずに、ごほごほっと咽せてしまう。
 マスターはまあ初めてはこんなものだろうと思って、がくぽの体の向きを元に戻した。赤い紅を引かれた口唇から自分の精液が零れている様を見ればマスターは言い様のない恍惚感と劣情に襲われる。
「苦い…けほっ」
「その内慣れるよ、それよりほら、まだ終わってない」
「えっ…」
「がくぽがイッてないじゃん」
 それは確かにその通りで、がくぽはまだ射精していない。欲望に疼く下半身はそのままで、飲まされた精液の苦さがその全てを一瞬忘れさせていた。どうしようとがくぽが思い悩んでいると、腰の辺りでなにか熱の固まりを感じる。ちらりと見てみるとそれは先程吐精したばかりのマスターの性器だった。何とまあ、回復力の逞しいこと…と思っていたら、マスターががしっとがくぽの腰を掴んだ。
「な、なんじゃ?」
「がくぽさぁ、いつもみたいにイきたいだろ?だから、ほら、俺の使いなよ」
 要約すると、がくぽにマスターの性器を自分で自分の中に突っ込めよということ。これまた面食らったがくぽだが、確かにこのまま放っておかれたら困ってしまう。自分から強請るなんてまるで淫売のようで抵抗感はあったのだが、もうがくぽは追いつめられていて正常な判断も出来ない状態になっていた。言われるままにマスターの性器を掴み、そっと自分で自分の後孔を解しながらそれを身体の中に埋め込んでいく。
「っああっ!」
 自分の体重がそのままかかる為にマスターの熱い塊が一気にがくぽの身体の奥まで届いた。がくぽが衝撃のあまり一粒涙を零すと、マスターはそのまま下からがくぽを突き上げる。結合した部分からは互いの液体が混ざり合う卑猥な水音が部屋に響いた。
「んっ!う、はぁっ…ま、スタぁっ」
 今までにない体位で行われるセッスクに、がくぽは戸惑いながらも激しく乱れる。前髪は汗をかいた肌に貼り付き、長い薄紫色の髪の毛は身体の揺れとともにゆらゆらと動く。美しく反り返った背中と喉元、その艶やかな口唇から発せられるのはいつもの声とはかなり上のオクターブの嬌声。
「うんっ、あぁ駄目っ、も…う!」
 ひと際高い鳴き声を上げ、がくぽは頭の中を真っ白にして絶頂に達した。がくぽの性器から溢れた精液はひゅるっと宙を舞ってから、マスターの胸にぽたぽたっと落ちる。マスターの性器は、がくぽが達したときの強い締め付けに耐えられずにほぼがくぽと同時にがくぽの中へと出していた。
「なんか、やれば出来るんだなぁ」
 マスターは力が入らない様子のがくぽの身体をそっと床に倒して、自分が上になった状態でそろそろとがくぽの中から自分のモノを抜き出す。2度も出したからかなり満足しただろう。
「マスターの、鬼…」
 ああもう思い出すのも恥ずかしい今日の性交のあれこれ。最後には自分が上に乗って腰を振るという辱めを受け、まあ気持ち良かったことは事実なのだがとにもかくにも恥ずかしくてあちらこちらの肌が桜色に染まっているがくぽである。
「これくらいで何を…あ、雨が止んでる」
 ふと窓から外を見遣ると、それまで重たい色の雲に覆われていた空から太陽の光が差し込んでいる。がくぽは着崩れた浴衣をささっと直して窓に貼り付くと、あるものを見つけた。
「虹が見えるぞ!マスター!」
「へぇー、珍しい」
 がくぽもマスターも窓に貼り付いて、七色の架け橋を眺める。それは速い雲の動きのせいでそんなに長くは見れなかったけれど、虹を生で見るのは初めてのがくぽは嬉しそうに満面の笑みを見せていた。そんながくぽの笑顔につられてマスターも笑顔を作る。やがてしばらくすると太陽は姿を潜めてしまい、また雨雲に空は覆われてぽつりぽつりと雨が地上に落ちてきた。そしてまた柔らかで不思議なハーモニーを奏でてがくぽ達の耳に届く。
「雨もいいもんだな」
 マスターはぽつりと呟く。がくぽはまた窓の向こうに夢中で視線をマスターには向けないまま言葉を返す。
「雨は天からの恵みであるぞ」
「さっきのエッチも天からのお恵みか」
 それは違う!とがくぽは頬を染めてびしっと人差し指を立てながらマスターに向かい合うと、マスターははいはいと涙を目に浮かべて笑いながら流す。
 結局自分たちは雨が降ろうと槍が降ろうとこんな感じでずっと過ごしていくんだろう。



08/10/06

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