繋がれた手の平が、じんわりと汗ばんでいた。
「暑くなったね」
京子は自分の汗でハルが不快にならないかをちょっぴり心配する。でも、離したくない気持ちの方が強くて結局手を繋いだままでいる。
「そうですね、この時期って冬服なのに暑いですしね」
ハルは特に何とも思っていない様で、視線をあげて雲ひとつない遠くの空を眺めた。
「そうそう、でも夏服に変わる頃は梅雨で寒いんだよね。誰が六月から夏服って決めたんだろう?」
こつん。足元にあった小石を京子は蹴りとばす。小石はころころと2人の少し先まで転がった。
今日は、ケーキの日、別名ハル感謝デー。
お互いケーキが大好き、だけどそんなに頻繁に食べる金銭の余裕もお小遣いではそうないし、カロリーの過剰摂取で太ってしまうというリスクはうら若い少女たちには負えなかった。だから、知り合う前までは、各々が一日ケーキを好きなだけ食べても良い日というのを月に一日設けていた。ツナを介して仲良くなって──友達以上の関係になった今でも、2人は「それなら同じ日にして一緒にお茶を楽しもう」ということになった。
ツナの家に電話をして、いつもお茶会に参加するイーピンの所在をハルが確かめたのだが、ランボとどこかへ行ってしまって不在と言うということで、今日は2人だけのお茶会だ。
「京子ちゃんが買った苺のタルト、すごくおいしそうです」
「ふっふ、今日は苺もので選んでみたの」
「そういえば。ハルは最近買うものが定着しつつあります…」
「ハルちゃんのセレクトは大人っぽいなーって思うの」
「はひ!そんなことは…」
乙女のお菓子談義は尽きない。そうこう言っているうちに笹川家に到着してしまった。
「さあさあ!早くおいしいケーキを食べましょう!」
ハルを先に家に入れると、京子は紅茶を入れる為にケーキをハルに預けて、キッチンへと入っていった。
キッチンの棚から紅茶の葉が入った缶を取り出す。このあいだ専門店に入って、試飲した結果とても気に入ったので買ってきたのだ。可愛らしい白い陶器で出来たティーポットにお揃いのティーカップ。それらをお盆に載せて京子はハルが待っている自分の部屋へと向かった。
「お待たせ」
京子の両手が塞がっていたので、扉はハルに開けてもらう。紅茶のじっくり蒸らされた良い香りがふわりと漂って、ハルはきゃっきゃっと喜ぶ。
「わあ、良い香りです!容器も可愛いし、さすがは京子ちゃんの見立てですね」
「そんな大したものじゃないよ。さ、座って。今紅茶入れるから」
ハルはキラキラした目で京子の隣にすとんと腰を落とした。
普通ならば、向かい合わせに座るのが当たり前だろう。けれど、京子と身体を重ねる様になってからハルはこうして京子の隣に座る。向かい合わせで座るのはちょっと距離がある様で寂しい、と京子に言われてしまったのだ。別にべったりとくっついて座る訳でもないし、とハルはそれ以来こうして京子の隣に座る。
ハルは目の前に置かれた紅茶を、ゆっくりとカップを回して香りを楽しんだ後に一口飲んだ。
「んー、本当に良い香り…それに、甘いケーキによく合います」
「良かったぁ。私はこれすごく気に入ったんだけど、ハルちゃんはどうかなーって正直心配だったの」
「京子ちゃんセンス良いですから。あっ、本当にケーキ苺ものばかりですね」
ずらっと皿に並べられたケーキは、1人3つずつで計6個ある。ハルのケーキはいつものモンブラン、ガトーショコラ、ほんのすこしラム酒が使われているオレンジソースのチーズケーキ。京子のは苺のタルト、苺を混ぜた生クリームが使われているシュークリーム、ケーキの定番苺のショートケーキ。
「はい、一口どうぞ」
こうして2人は互いのケーキを一口ずつ食べる。
「わー、苺どれもとってもデリシャスです〜!」
「このチーズケーキ、オレンジのソースが爽やかでいいね」
紅茶を飲みながらケーキを食べる、優雅な休日だ。
京子がふと横にいるハルの顔を見ると、唇の端に先程京子のケーキを食べた時についたと思われる生クリームがついていた。
(ハルちゃんてば気がついてない…)
京子がハルに近づいて、そのクリームをぺろりと舐めとった。
突然の刺激にハルは驚いて数歩後ずさりする。
「えっなっと…!?」
「ハルちゃんてば口の端っこに生クリームつけたままなんだもん」
「あ、そ、そういうことですか…ありがとうございます」
ハルの顔が真っ赤になっているのを見て、ちょっと悪戯したくなった京子はにやりと笑う。悪い癖だ。
「なーに?キスでもするかと思った?」
「はひっ、そんなことはちっとも…!」
手をぶんぶん振って必死で否定するハルだったが、こんなことはスイッチの入った京子を止められることはないと分かっている。
「キス、したいな」
「う……」
京子のような瞳の大きな美少女がうるうると瞳を潤ませて懇願しているのを、断れる人はいるのだろうか。あ、雲雀さんならなんか出来そう…なんて思考が横道に逸れていくハル。
「嫌ならしないよ」
京子の白くて細い指がハルの頬をそっと包み込む。皮膚を通して感じる京子の体温はあたたかくて、優しかった。
ハルは返事をする代わりに、きゅっと目を瞑った。
可愛い。可愛いハルちゃん。大好き。
京子は嬉しくて幸せで、そっとハルの唇に触れた。
初めは触れるだけのキスを何度も繰り返した京子だが、息苦しさから薄く開けたハルの唇から自分の舌をするりと侵入させた。
「ん、んむ、ふぐ…!」
絡まる2人の舌が、唾液が絡まってちゅくちゅくと水音を立てる。もう限界、とばかりにハルが京子の背中を軽く叩いた。
つぅっと互いの舌から唾液が糸を引いて唇が離れる。熱が篭ったような呼吸音が切なげな喘ぎ声の様に聞こえた。
「…どうしよう」
「は…はひ?」
ハルの瞳から一粒涙がこぼれると、京子はその涙を掬う様に舐めとる。よほど苦しかったのだろう。
「…えっち…したくなっちゃった」
「はひー!!」
京子その言葉にハルはかちんと固まってしまった。あんなキスをした後では、言われるかもと思ってはいたが…。
ケーキもお茶もまだそこそこなのに、2人はテーブルを離れてベッドの上に移動する。押し倒す、という行為が京子はあまり好きではなかった。半ば強制的に相手の動きを封じて好き勝手しようなんて、なんだか相手の気持ちをちっとも考えていない様に思ったからだ。
京子はハルの後ろに回ってぎゅうっとハルをぬいぐるみの様に抱きしめる。
「今日の京子ちゃんは甘えんぼさんですねー?」
「うん。何でだろう。2人きりになるのが久し振りだからかな」
2人でくすくすと笑う。笑いながら京子はハルのうなじにちゅっちゅっとキスをしていく。今日のハルはいつものポニーテールではなくてサイドに2つにまとめたツインテールだ。むきだしになっているうなじが透き通る様に白くて艶かしかった。
京子はそろそろと手を動かし始めて、ハルのブラウスのボタンを後ろにいながらも器用に外していく。全部外し終えるとそれを脱がし、ブラのホックをぷつんと外した。締め付けのなくなったハルの胸はぷるんとはじけて外気に晒される。京子は指をハルの肌に滑らせる様にしてその胸を後ろから包み込む。そして不規則なリズムで揉みしだく。
「や、京子ちゃ…手つきがやらしいですっ!」
「むぅ。ハルちゃんは私よりおっぱい大きい…」
「ひゃう!ち…乳首…摘まないで下さい」
「気持ち良くない?」
「そ、そういう問題じゃな…」
ハルの胸を後ろから揉んでいた京子は「んー…」と何やら考えていたと思うと、ベッドから降りた。降りて自分の服をパパッと脱いだら、人差し指でそれを掬い舐めると、そのまま手にもってベッドに上ってきた。ハルは一部始終をぽかんと眺めていた。京子が何をしたいのかが分からなかったからだ。
ベッドに戻ってきた京子は、ハルを横たわらせて下半身も全て脱がすと、手にしたそれをハルの胸の谷間にぼとっと落とした。
「はひっ!!」
それ──苺の生クリームとカスタードクリームが混ざり合ったシュークリームは、落下した衝撃で飛び散ったそのクリームでハルの上半身を汚した。
「えっちな雑誌に載ってるグラビアっぽいよ、ハルちゃん」
京子はクリームを少し掬いとると、ハルの胸の飾りの頂点にちょんちょんとデコレーションを施した。
「んっ…あ、あん」
京子は先程飾り付けたクリームを丁寧に舐めとっている。クリームの冷たさと、京子の舌触りがビリビリと電気のような刺激になってハルの思考を奪い、蕾を濡らす。
「ハルちゃん、甘くて美味しいよ…」
執拗に乳首をねぶり、吸い付く。その度にハルの身体がひくひくっと震える。その様子が可愛くて何度でも見たくて京子はハルの胸に落ちたクリームを全て舐めとる。クリームの代わりに、京子の唾液でベトベトになってしまったハルの上半身。
京子は感じて濡れているハルの蕾に気がつくと、指を這わせて粘液を自身の指に絡ませる。
「あれ…?こっちもトロトロのクリームでいっぱい…」
ハルは言われたことの意味を理解して、顔から火が出るくらいに真っ赤にした。
「き、気持ち…良くて…止まらないんです」
「うん…嬉しいな。じゃ、もっと気持ち良くなってもらおうかな」
京子はこそっとベット脇にあるテーブルから小さなものを取り出した。はっきり言ってしまえば「大人のおもちゃ」だ。インターネットで取り寄せたもので、小さなローターが2つあって、バイヴレーションを調節するリモコン部分で2つは繋がっている。京子はこれを手に入れたその日は、家族に見つかっていないかスリルでいっぱいいっぱいだった。
「うんと…私も使った事ないんだけどね?この小さな卵みたいなのをこう…自分の中に入れて…」
「はっ、入るんですかそれ!?ハルには絶対無理です」
ハルはその小さなローターを手の平に乗せてまじまじと見つめている。これは京子も思ったが確かに入るんだろうか。自慰をしようと指を入れた時さえ痛みを感じたのに。
「──わかった、私が最初にいれてみる」
ハルを納得させるにも見せるしかない。京子はローターをそっと蕾の入り口に宛てがう。それをハルがじっと見ている。そんなシチュエーションに妙に興奮してしまって、京子のそこはみるみるうちに愛液が溢れ出した。
「あ、…京子ちゃんも感じてます」
いつもやられっぱなしではない、ハルがくすりと笑った。
「ん!んんっ、あ、あれれっ…!?」
最初は何かが突っかかってローターの侵入を拒んでいたが、タイミング良く愛液が出てきてくれたので、一番きつい部分を越えたらそのまま京子の蕾はごくりとローターを飲み込んだ。異物感があって変な感じだけど、とにかく手本としては成功した。あとはハルだ。
「ほら、入ったよ」
「…………」
ハルはまだ訝しげな顔をしている。
「ハルちゃーん!」
「分かりました!ハルも女です!度胸で勝負します!」
京子がやったのと同じ様にハルも大きく足を広げて入り口にローターを入り口にぐいぐいと押し込む。
「いっ、痛い、痛いです!」
涙を浮かべて苦痛を訴えるハルの手から京子はローターを奪って、今度は優しく少しずつ蕾への侵入を深めていく。
「ハルちゃん、力抜いて…そう、ほら入っていってるよ」
「ん…んぅ…」
京子に縋る様にハルは京子の首に手を回した。冷たい無機質なローターが身体の奥に入っていくのがやけにはっきりとした感覚で、ハルは少し怖かった。ややあって、身体が何かを引き入れたことが分かった。ローターがハルの身体の中に全部入ったのだ。
「あ…入っちゃいました…」
ほっとした様にため息を吐いた。しかし次の瞬間、ものすごい振動がハルの身体の中を駆け巡った。
「あああっ!」
「きゃああ!」
ショックは京子も同じだったらしく、京子の腕がふるふると震えている。
「な、何ですか今のっ…」
「ご、ごめん。スイッチ入れたら強過ぎた…ちょっと調節するね」
京子は手にした片手サイズのリモコンのダイアルを回して振動の強さを少し弱くした。すると、身体の中でローターが小刻みに震え始めた。
「う…あぁ、ふっ…」
「ん…今度はちょうど…いいかな…あんっ」
しばらくは少女2人の喘ぎ声と、ローターのモーター音が響くだけになった。
しかし何か足りない。
何か…京子は自分の身体の下でローターからの刺激にびくびく身体を揺らしているハルを見つめた。
ああ、そうか。2人が一緒じゃないからだ。これでは互いのオナニーをただ見ているだけに過ぎない。一緒になるあの感覚がないのだ。
試しに京子はずっ…と自分の蕾とハルの蕾を合わせた。ぐりっとクリトリス同士がこすれ合う感覚はやはりローターごときにはどうにもならない。が、2つの身体が密着することで、互いの身体の中にあるローターの振動が伝わってきた。それは自分の中のものと混ざって、より強力な刺激になる。
「ひゃん!京子ちゃ…!」
「ハルちゃん…っっ」
頭がぼんやりとして上手く働かない。刺激を感じ取ることが最優先になっているようだ。ハルも拙いながらも必死に腰を動かして京子の負担を軽くする様に努力する。耳元で京子が自分の名前を繰り返し呟いているのが聞こえた。
京子はもう、ハルの体温を求めることか考えていなかった。ハルの身体を抱きしめて、腰を擦りあせて、絶頂という高みを共に目指して。
「あ、ああっ、あ──っっ!!」
ハルががくがくと身体を揺らしてひと際甲高い嬌声をあげる。
「はぁ、好きっ、好きぃハルちゃん…!」
京子はリモコンの調節を最大にして、2人により大きな波が来る様に
仰け反るハルの背中を全力で抱きしめた。
そうして絶頂を迎えた後、しばらくベッドでいちゃいちゃしていた京子とハルだったが、家族がいないうちにハルをお風呂に入れないとまずいということになって、とりあえずハルにはお風呂場に行ってもらった。京子は、とりあえずティータイムを再開しようと、新しく紅茶を入れにキッチンへと向かった。
紅茶をカップに注ぎ終えると、丁度ハルがお風呂から戻ってきた。湯船は使わず、シャワーで身体を洗っただけなので時間はそれほどかからなかったようだ。
「わっ、また良い香りします」
「うん。ケーキ食べないと!運動したからお腹も減っちゃったし」
「今日はもうえっちはなしですよ?」
ハルは先に京子に釘を刺す。
「でも…キスは良いでしょ?」
ハルが断らないことを知っていておねだりする京子。普段は人を振り回すトラブルメーカーなハルでも京子には勝てないようだ。京子の隣に腰を下ろすハルに、許されていることを感じる京子。
「さあ、お茶会を再開しましょう!」
2人の前には、甘いお菓子とおいしい紅茶。
なにより、2人だけの時間がある。
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